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研究紹介


 私たちの体の細胞は、もともとはたったひとつの受精卵からできています。この受精卵が分裂を繰り返し、少しずつちがった役割の細胞へと分化することによって、最終的に私たちのような複雑な体ができ上がります。
 細胞の分化を制御するメカニズムにはいろいろとありますが、その中でも当研究室では、細胞と細胞の間で交わされる『会話』ともいうべき「細胞間相互作用」に注目して研究を行っています。細胞は、細胞にとっての『声』である「シグナル分子」を分泌し、細胞表面の『耳』である「受容体」でそのシグナルを受け取ります。受け取ったシグナルは細胞内へと伝えられますが、それが核内に伝わり遺伝子発現を誘導すれば細胞の分化などを引き起こしますし、また細胞骨格の再編成などにより細胞の形態変化あるいは遊走性の獲得を引き起こします。このような細胞外環境を感知するシステムに異常が生じると、それが原因で疾患を引き起こすことがあります。
 そのような疾患のうち、当研究室ではBMP受容体遺伝子の突然変異に起因する疾患、FOP(Fibrodysplasia

シグナル関連因子の異常に起因する疾患の病態解明と創薬に向けた研究

Ossificans Progressiva;進行性骨化性線維異形成症)の研究を戸口田研究室と共同で行ってきました。これまでに疾患iPS細胞の樹立、変異遺伝子を正常型に戻したレスキュークローンの樹立、疾患再現系の確立、新しいシグナル伝達メカニズムの解明などを行ってきました。現在は、発病のメカニズム、異所性骨の起源の探索、創薬に向けた研究を進めています。

 神経堤細胞とは、発生過程に一過的に出現する非常に特殊な細胞集団です。脊椎動物の発生過程の神経胚期に、外胚葉は神経外胚葉と表皮外胚葉に分かれますが、そのちょうど間に出現する「神経堤」と呼ばれる部位に生じる移動性の細胞集団が神経堤細胞です。体の最も背側の部位で生まれたこの細胞集団は、そこから腹側に向けて強い遊走性を示し、体のあらゆる場所へと移動してさまざまな細胞へと分化することが知られています。例えば、体幹部では感覚神経・交感神経・副交感神経などの末梢神経系や色

神経堤細胞の研究
 

素細胞などへと分化しますし、また頭部ではこれらに加えて骨・軟骨や角膜内皮などへと分化する能力があることが知られています。この特殊な細胞集団は脊椎動物以上にしか存在せず、その多分化能から外胚葉・中胚葉・内胚葉に次ぐ第四の胚葉とも呼ばれています。また、神経堤細胞の異常が原因となって起こる病気は、神経堤症(neurocristopathy)と呼ばれる1つのカテゴリーに分類されています。

 歴史的に見ると、神経堤細胞研究には両生類胚や鳥類胚が主に使われてきました。これは、哺乳類胚が母体内で発生するため解析試料を得ることが難しかったのに対し、卵で発生する両生類胚や鳥類胚は観察も容易で、かつこれらの生物では古くから生体標識や交換移植などの基盤技術が発達したことが理由として挙げられます。しかし、ヒト多能性幹細胞の創生をきっかけに、現在はヒト多能性幹細胞からin vitroで神経堤細胞を誘導する技術が開発され、当研究室でも誘導法の改良により簡便で高効率な再現性の高い誘導法を確立しています。

 現在は、この誘導法を用いた神経堤細胞誘導過程の研究、神経堤細胞由来分化細胞を用いた病態再現系の確立と創薬研究、将来の再生医療応用を目指した誘導法の改良などを行っています。

 たった1つの細胞である受精卵が、細胞分裂と分化と形態形成運動を繰り返すことにより、われわれのような複雑な体がかたち作られます。このような過程を「発生」と呼びます。発生過程において、受精卵からしばらくの間、細胞は分化全能性(どのような細胞にもなれる能力)を維持しています。しかし、発生段階が進むとエピジェネティックな変化が生じ、基本的に核内にはすべてのゲノム情報が収納されているにも関わらず、細胞の分化能は徐々に制限されていきます。最終的に細胞は、機能的に特化した最終分化細胞へと分化し、それらが集まって組織や器官が形成されます。

 しかし、このような分化の道筋からある意味外れている細胞が存在します。それが幹細胞です。幹細胞は自己複製能と無限増殖能と、別の細胞へと分化する能力を持つ細胞と定義されています。われわれの体の中にも、造血幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、神経幹細胞など多種の幹細胞が存在することが知られており、

多能性幹細胞を用いた新しい幹細胞の研究

これらの細胞は、われわれの体の状態を一定の状態に保つ(恒常性維持)ために、非常に重要な役割を果たしています。幹細胞はまた、再生医療の細胞源としても注目されています。ただ、幹細胞は通常、生体内の特殊な環境下でのみ維持されていることが多く、取り出して培養をすれば大抵の場合は幹細胞性を消失してしまいます。

 当研究室ではヒト多能性幹細胞であるヒトiPS細胞を出発点とし、iPS細胞から少し分化段階を進めた細胞を維持培養する条件の探索を行っています。現在は神経堤幹細胞に焦点を当てていますが、今後は間葉系幹細胞、神経幹細胞などの研究に加え、さらに別の幹細胞同定の可能性を視野に入れて研究を進めていく予定です。

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